平成20年8月に韓国通度寺霊山殿研究対象壁画前に足場を設置し韓国・台湾・日本三国共同で詳細調査を行った。本調査において、写真資料からでは判断できない、絵具層の重なりや損傷状況を詳細に記録すると共に、構造体と絵画面の歪みとの関連等の調査を行った。その結果、壁面全面に緑土を下地として使用しており、多宝塔の壁面や扉には、盛り上げ技法を用いて、雲母が塗布されていることが判った。また、後補部分の検証においては、構造体から見ると壁画上部が後補の可能性も考えられたが、韓国建築の専門家との話し合いの中で、日本と韓国の建築方法の違いがあることが判り、再度、現状を調査した結果、当初彩色と断定した。また、一部顔料試料を採取し本国に持ち帰り顔料分析を行った。当初から緑色顔料として、アタカマイト・ムールアイトの使用の可能性が問題視されていたが、両者が銅の二次鉱物であるため、絵具として使用するだけの採取量が見込めない点や韓国において採掘箇所が特定できない等の絵具として単独で両者を使用するには疑問点が多く、偶然に混入していたか経年による変化により、生成されたと判断した。しかし、この問題については、今後も調査、検討が必要である。また通度寺伽藍内の大雄殿、大明光殿、龍華殿、観音殿の装飾彩色の意匠・技法素材の変遷を調査する上での基礎資料収集のための写真撮影を行い、類例調査として新興寺・無為寺の装飾彩色を調査した。本調査で判明した結果をもとに、当該年度は対象壁画中段の復元模写を行った。尚、平成20年9月に再度韓国通度寺に赴き、韓国側の現状模写の進行状況を確認すると共に、シンポジウムの開催を含め今後の進行について打合せを行い、平成21年度12月に本年度予算を繰越、本学にてシンポジウムを開催した。
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