少子高齢化社会において芸術が高齢者や障害者、病人を治癒するのみならず、社会そのものをも治癒する「効能」をもっていることを1)ヨーゼフ・ボイスの社会彫刻2)アウトサイダー・アート3)環境倫理学の横断的かつ学際的研究によって明らかにし、《厚生芸術》という新しい概念が21世紀の芸術と社会において極めて有効な概念であることを理論と実践現場の双方から理論化、概念化する。 平成22年度は1)ヨーゼフ・ボイスの思想を光学に偏向した旧来の芸術を批判した熱学的芸術としてとらえ直し、「社会彫刻」概念を創造的資本論として再解釈する研究を中心軸として2)芸術の社会的役割を「芸術の効用再考」、「厚生芸術=芸術(教育+医療・福祉+環境)」「芸術という労働市場」の三方向から文献によって定立し直すとともに、それらをアウトサイダー・アートと厚生(福祉)経済学との連関からも多層的研究を深めた。結果として、これらの背景になっている物理学における熱学が近代社会を駆動する基盤となったことを確認し、ボイスの芸術がまさにこの熱学の導入によって、芸術が社会的に有用なものであることを目指すものであることを解明するにいたった。 少子高齢社会の厚生を創造性が支えることはすでにヨーゼフ・ボイスの芸術が示したとおりであるが、21世紀の社会では従来型とは異なる社会的意義を担った新たなタイプのアーティストの出現が望まれる環境になってきている。 以上の理論的研究は堅冷化していない若い創造性へと接続される必要があるために、芸術系大学での実践プログラムとして大学が革新されるべきことを本研究の成果報告書としてまとめた。タイトルは以下のとおりである。 「厚生芸術の萌芽的研究 少子高齢化社会における社会厚生のための熱学思想と創造的資本論の接続による実践美学試論」
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