本研究は、アラスカ先住民社会の物語継承の取り組みを現地で調査し、新たな文学教育の可能性を探るものである。平成20年度の目標は、アラスカ南東部に暮らすクリンキット族やハイダ族について、世代間で部族の物語がどのように継承されているのかを調べることであった。調査を進める中で、課題として浮き彫りになったことの一つに、伝承物語の内容、及びその歴史的背景に関する自分自身の理解不足があった。21年度は、前年度の調査や、収集した資料をもとに、ハイダの創世神話の意味とその重要性について考察し、論文としてまとめた。(林千恵子「ワタリガラスの神話-ハイダ族の神話と歴史をもとに」『バード・イメージ-鳥のアメリカ文学』松本昇、西垣内磨留美、山本伸編、金星堂)。 なお、論文で取り上げたハイダ族の多くは、国境を接したカナダに暮らしている。同様に、極北の先住民の場合、居住地域がアラスカからカナダにまたがっている場合が多い。カナダのFirst Nationsの現状もあわせて知らなければ、部族の文化を深く理解することはできないことを痛感するようになった。そのため、3月にはカナダで調査を行った。クィーン・シャーロット島ではHaida Heritage Centreで伝統文化継承の取り組み事例を見学した。またRoyal BC MuseumやUniversity of British Columbiaでは、First Peoplesの教育の現状に関するリポートや資料を調べ、今後のカナダでの調査の準備を行った。 今年度はアラスカでの先住民教育の新しい可能性を示したGeorge Guthridgeの教育の事例とFuture Problem Solving competitionsの成果についてまとめる予定である。その際に、カナダの先住民社会との相違も明らかにできればと思う。
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