研究概要 |
本研究は、アダプテーション理論に依拠しつつ、広範なメディア・ジャンルを横断して物語が作り直されるありようを分析・考察し、主流文化からサブカルチャーまでを射程に収めた動態的分析方法を開発・提示することを目的とする。そうした研究活動の端緒として、まずアダプテーション研究の動向を把握するための広範かつ詳細な調査・分析をおこなった。具体的には研究代表者および研究分担者それぞれの専門的関心を最大限に生かして、アダプテーション、メディア・映像研究、物語論を軸とした研究分野の多様な文献、さらに欧米(英語圏を中心とした)における先行研究の検証をおこなった。なかでも、Linda Hutcheon, A Theory of Adaptation(2006)、およびThomas Leitch, Film Adaptation and Its Discontents(2007)所収の論文を中心として、その内容を検討するための研究会(読書会)を計6回開催し、アダプテーション理論および研究の現状と問題点について理解を深めた。そうした研究活動をつうじて、個々のメディア特性を十分にふまえた理論化作業と実践が、アダプテーション研究を従来の文学的物語研究の延長線上に置きながら、同時にそれを文学と多様なその他のメディア研究とのインターフェイスととらえ、発展させていく包括的な汎メディア型物語研究を提示できる可能性を引き出せたことが、研究初年度の大きな成果である。こうしたアダプテーション理論発の新たな物語研究構築についての一連の問題意識をふまえたうえで、鴨川啓信は論文「ウィスキー司祭を表す幾つかの表現-旅行記、小説、映画-」を執筆・発表した。小畑拓也は口頭発表「サイボーグたちの異界-『サイバーパンク』アニメの拡張された『視覚』とヘゲモニー」をおこなった。また片渕悦久は論文「ウェブサイトは作者をどう投影するか-ジョナサン・サフラン・フォア『エブリシング・イズ・イルミネイテッド』と映画版アダプテーションをめぐって-」を執筆・発表した。
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