研究概要 |
1.論文と学会発表に関して、井戸は「青島戦ドイツ人捕虜の元部隊について」により、青島守備隊の主力であったドイツ海兵隊の歴史と任務を辿り、十分に知られていないこの部隊の性格を明らかにした。10月13日の国際シンポジウム「日独文化交流史上の在日ドイツ兵捕虜とその収容所」において川上は徳島収容所(1914-17)ですでに捕虜の文化的諸活動が許容され、先駆的に所外での就労も行われたことなどを指摘した。井戸は、美化された武士道を受容していたドイツ人捕虜が、日本で現実に触れて武士道に関してネガティヴな日本人観を表明していること、当時の日本の新聞や陸軍文書で「武士道」が捕虜に対する寛大さと、捕虜になるより死を選ぶべしという二つの異なる文脈で用いられたことを指摘した。 2.翻訳活動に関して、川上・井戸はいずれも鳴門市史料研究会(会長川上)に所属し、他の会員三名とともに徳島収容所の捕虜新聞「トクシマ・アンツァイガー」を翻訳している。今年度は全体の約三分の一の訳稿の相互点検をおこなったが、2,3年後の完成と出版をめざして翻訳の継続を決定した。 3.資料の整備に関して、今年4月より川上が主任研究員を努めるドイツ館の概存資料の整理・登録が不十分なので、一貫した書式を作成し、Webでの公開をめざして登録を開始した。また、外務省文書や捕虜新聞などマイクロフィルムの重要資料のデジタル化を業者に依頼しておこなった。これにより研究全体の基礎となる資料を容易に見ることができ、外部の研究者の便宜も図ることができる。 4.出張に関して、川上は、久留米・福岡・大分・姫路・青野ヶ原など収容所跡を訪れ、跡地や資料の見分を行い、現地の研究者と情報を交換した。井戸は、ベルリンなどの文書館で、捕虜の手記や日本のドイツ兵捕虜待遇を扱う新聞記事や中立国調査団の報告書などを調査し、その一部を複写した。 またドイツ国内の研究者たちと情報交換を行い、貴重な資料を提示してもらった。
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