音節境界を画定するにあたり、聴覚音声学的方法として、誘発脳波の1つであり、認知・思考を反映するとされる事象関連電位(以下、ERP)を用いた聴覚音声学かつ電気生理学的な実験音声学的方法を行ってきた。音声学的音節の境界画定をかつて試みて、音節頭に立つ音韻の種類、ピッチ変動などの要因が音節境界の画定に影響を及ぼしていることを検出している。 年度内にその追験を行った結果は以下の通りである。 (1)ピッチ課題では高いものや上昇するものが潜時が早い傾向があり、(2)音圧課題では大きいものの方が潜時が早い傾向があった。従って、ピッチの高さと音圧の大きさという異なるプロソディー情報に強い相関関係があることが示唆される。(3)音質課題では、上の2つの課題のように明確な対応があるわけではなく単純な対応関係があるとは考えられないが、処理過程が(1)(2)同様N1・P2潜時に反映されていることに鑑みれば音質に至ってもピッチ情報や音圧情報と並行的に処理されている可能性が想定できる。今回実験を行なった複数のプロソディー情報は別々に処理されているのではなく、音声を聞き始めて100〜200msの段階である程度処理されていると考えられる。また(3)音質課題の結果から、分節音の認知に至ってもある程度プロソディー情報と並行して処理されている部分がある可能性が高い。また、アナローグによる波形のゲシタルトに注目することによって、相対的な特徴をつかもうとする視点を前面に押し出し、これを「差異の体系」と呼ぶことにした。 以上の結果から、音節境界は他のプロソディーと截然と分離することなく処理されていることが主張できる。
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