本年度は発話データの収集や書き起こしなどの作業について、手話を扱うにあたって最も適当と思われる方法を検討し、翌年度の研究活動に向けての体制を整えることが中心的な活動である。その過程でろう者の手話発話データの収集を行った。 日本手話を第一言語とする、関東在住のろう者3名の手話による発話をビデオで記録した。そのうち2名については、単独の発話だけではなく、対話データの録画も行った。ネイティブサイナーであるコンサルタントがデータの書き起こしを行った。書き起こしの形式について、複数のフォーマットを試験的に用いた。手話では、音声言語と異なり、顔全体や眉、口の形などで同時に異なる情報が表現されるため、書き起こしにあたっては、複数の階層を用いた記述ができるE-LANというソフトウェアを用いた(オランダのマックスプランク心理言語学研究所がインターネット上で公開中)。 5月からは月例会として手話言語学研究会を開始した。奇数月はろう者の参加者が中心になり、日本手話を用いて言語学の基本概念や手話の基本データについて考察する内容で、偶数月は音声日本語を用いて、言語学研究者が中心に参加して、海外の手話言語学の重要文献を検討するというものである。この2つを同時に開催することにより、より多くのタイプの協力者とのネットワークが可能になった。11月には、学内の研究発表イベントであるHiyoshi Research Portfolioにおいて、研究の目的と意義を説明するポスター発表を行った。
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