3年計画の最終年度となる今年度は、統語研究および手話研究用のデータベースとしても利用可能な手話自習教材の開発を行った。研究成果は日本手話学会で発表し、また研究の概要を紹介するポスターをHiyoshi Research Portfolio上でウェブ公開した(URLは「備考」欄を参照) 日本手話の非手指動作の一つである口型の分析では、アスペクト・話者の態度(語用論的特性)・極性(意味的特性)など、ネイティブサイナーが用いる口型の様々な文法機能が特定された。これらの特性は音声日本語からの転用では説明できないものである。特に「極性」については、バスク語やスウェーデン語などの音声言語との比較をまじえた分析を提案した。埋め込み文の分析では、直接引用文と統語的埋めこみ文とで文法的特性の違いがあることが明らかになった。これは海外の手話研究で活発に議論されている手話のWh疑問文の統語的特性の研究の基盤となる観察となる。本研究で蓄積したビデオデータの一部はELANソフトを用いた手話教材として開発中である。ELANでは録画データに非手指動作の詳細な記述が同時に提示されるため、言語研究データベースとして利用することが可能である。 複数の日本手話ネイティブサイナー(日本手話を母語とするろう者)から個人差に左右されないデータを収集するという本研究の目的は、限られた範囲ではあるが達成された。手話データベースのDVDはまずは配布先を限定した公開をめざして準備中である。また、このプロジェクトをきっかけに(1)ネイティブサイナーを含むろう者が手話言語学を学ぶ研修会および(2)言語学を専門とする研究者が手話言語学の文献を読む研究会が設置され、定着しつつあることは今後の国内の手話言語学研究の発展につながる動きとして特筆しておきたい。
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