本研究には、「錦鯉」という日本の地方文化が、国を表象する「伝統分化」へと社会、経済、政治的に構築され、さらに、それが海外へ移転、輸出されて、グローバルな分化として影響力を保持するまでに至る過程、すなわち「日本分化の創造と拡散のダイナミズム」を、今までの民俗学にはなかった新しい視角と手法によって統合的、実証的に俯瞰し、検証することを目的としている。 本年度の研究では、錦鯉文化の創造過程を研究の縦軸とし、錦鯉分化の拡散過程を研究の横軸として、文献研究とフィールドワークという二つの手法を効果的に融合させた。ます、本年度は本研究の縦軸である錦鯉分化の創造過程を考究するために、地方史、地方紙や錦鯉愛好書・飼育書などの錦鯉関係資料などの収拾、整理、分析を通じ、政治・経済・社会の状況と不可分な錦鯉分化の創造過程を明らかにした。 次いで、本研究の横軸であるグローバルな錦鯉分化の拡散過程を追求するために、新潟県小千谷市を起点として、鯉師の国内外の関係者ネットワークを実際に辿りながら、鯉師の活動に関してのオランダ・ベルギー・デンマーク調査(2008.6.13-6.21)、中国における錦鯉産業と分化浸透に関しての北京調査(2008.9.27-9.30)、広東調査(2008.10.10-10.14)を行い、モノグラフとして全体像を捉え、その構造を分析した。その成果の一部は、2009「世界を泳ぐ錦鯉-動物分化の全球化・現地化・脱国籍化-」『人と動物の日本史3-動物と現代社会-』(菅豊編著、吉川弘文館)pp.69-94、2009「家魚の分化誌」『ヒトと動物の関係学2-家畜の分化-』(秋篠宮文仁、林良博編、岩波書店)pp.168-178などの論著や、国内外の学会、シンポジウム等で発表された。
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