本研究は、「錦鯉」という日本の地方文化が、国を表象する「伝統文化」へと社会、経済、政治的に構築され、さらに、それが海外へ移転、輸出されて、グローバルな文化として影響力を保持するまでに至る過程、すなわち「日本文化の創造と拡散のダイナミズム」を、今までの民俗学にはなかった新しい視角と手法によって統合的、実証的に俯瞰し、検証することを目的としている。 本年度の研究では、錦鯉文化の創造過程を研究の縦軸とし、錦鯉文化の拡散過程を研究の横軸として、文献研究とフィールドワークという二つの手法を効果的に融合させた。まず、本年度は本研究の縦軸である錦鯉文化の創造過程を考究するために、地方史、地方紙や錦鯉愛好書・飼育書などの錦鯉関係資料などの収拾、整理、分析を通じ、政治・経済・社会の状況と不可分な錦鯉文化の創造過程を明らかにした。 次いで、本研究の横軸であるグローバルな錦鯉文化の拡散過程を追究するめに、新潟県小千谷市を起点として、鯉師の国内外の関係者ネットワークを実際に辿りながら、鯉師の活動に関して調査研究を行った。具体的には小千谷市を中心とする国内調査とともに、中国における錦鯉文化の産業化と文化浸透に関しての広東調査(2009.5.13-5.18)なども行い、モノグラフとして全体像を整えた。その成果の一部は、日本民俗学会第61回年会(2009年10月4日)「トランスナショナリズムの民俗学-グローバル化時代における錦鯉文化のインタラクション-」、American Folklore Society 2009 Annual Meeting(2009年10月24日)"Substituted Sacred Place"などの国内外の学会、シンポジウム等で発表された。
|