上記の二つの非物質文化遺産について、二回に現地に行って政府の文化政策、知識人の参与と地元の人々の日常的実践、三つの側面から考察した。また、地元の人々と学術的交流を行い、日本の無形文化財や、博物館、端午の節句、建物の瓦などにおける鐘馗表象について紹介した。参与観察、聞き取り調査、アンケート用紙による調査を通して下記のことを明らかにした。 (1)非物質文化遺産の申請と管理は県・市・省の政府によって行われている。認定後、申請した政府は認定した政府から助成金をもらう。しかし、上記の遺産は地元の民衆の間で文化遺産としての認識が低いのが現状である。(2)鐘馗画の創作は、霊壁県出身の絵師の間で行われ、その技法は子弟関係の中で伝承されている。近年、これらの絵師によって画かれた鍾馗画はコレクター、観光客の間で人気上昇し、値段も上がっているが、一般の人々は鐘馗画への関心が薄い。和県の3月3覇王祭り(項羽)は地元の男女老若の厚い信仰層によって支持されている。信仰の伝承は家族の中で行われている。紀元前202年亡くなった項羽は、人々に廟、祭り、地名の命名、口頭伝承の形に記憶され、英雄、菩薩、神として信仰されている。(3)上記の文化遺産は政府に観光資源として活用されている。和県の場合、中国本土のみならず、台湾、日本、韓国からも観光客が訪れている。県政府は項羽祭祀を国家級非物質文化遺産として申請中である。(4)ネスコの文化遺産の理念の普及により、中国の各レベルの政府は大学、地元の有識者と組んで、地元の文化資源を調査し、その活用を企画している。 今後、政府主体の文化遺産の申請と管理は今後民間および民間文化にどのような影響を与えていくのかを注目したい。また、中国の文化遺産保護の実践は世界の文化伝承に貢献できる独自の実践モデルの提出が可能かどうかを見守りたい。
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