21年度において、20年度の研究と調査を踏まえ、人間神の生成、文化戦略と観光化についてその一部の成果を論文にまとめたと同時により集約的、インテンシブな人類学的現地調査を行い、歴史と現代の比較視点から、中国安徽省の非物質文化遺産の「3月3覇王祭(項羽祭祀)」と、福建省恵安県崇武村の解放軍祭祀の共通点と相違点を検討し、秦末、漢代以降の項羽伝説と現代の27名君子(解放軍)伝説、人間神の生成原理と伝承の仕組みについて考察した。また、グローバル化における項羽祭祀の観光化、歴史表象と地域の文化戦略についても調べた。 具体的に2009年7-8月において昆明で開催された国際人類学・民族学連合ICAES第16回大会においてグローバル時代における中国の文化戦略について発表し、それについて文献情報の収集を行った。また項羽の故郷である江蘇省宿遷市の項羽廟とその周辺で項羽記憶と伝説、現代の項羽表象と項羽の観光化について調べた。調査した際に現地で接触した人々に日本の無形文化財の理念と実践、日本における項羽表象を、本、演劇などの具体例を挙げて紹介して互恵的人類学の現地調査を実践した。 2010年2月に福建省恵安県崇武村で1993年に建てられ、観光地と愛国主義教育基地として使用されている「解放軍廟」について調べた。この「解放軍廟」は1949年に地元の人々を救うために命を落とした27名解放軍兵士たちを祀る施設である。廟を建てた曾恨とその家族の間でライフヒストリー、解放軍祭祀の契機、廟を建てる時の気持ち、その後の運営と機能などについて聞き取り調査し、参詣してきた人々の祭祀行為を観察した。調査した際に、日本で知られている福建省恵安県崇武村の解放軍廟の情報を現地の人々に伝え、互恵的人類学の調査を実践した。
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