本研究では、政治哲学などの研究成果と憲法理論を架橋するための方法論的課題を明らかにしたうえで、憲法学の側からも、政治哲学などに対して問題提起を行うことを可能にするための基礎的研究を行う。平成20年度は、上記の研究課題を遂行するための準備作業として、憲法学による政治哲学等の利用状況の調査・分析を主に行った。その際の問題意識は次の2点にある。(1)日本の憲法学における政治哲学などの利用状況、および、政治哲学などにおける憲法学説・憲法理論の援用あるいは批判の状況の調査及び分析。(2)日本の憲法学説が参考・援用する、政治哲学などの研究成果の調査と検討。(2)の作業は、(1)当該研究は、それが援用している政治哲学などの研究成果を正確に理解しているのか、(2)当該研究は、憲法学の理論状況や問題意識を踏まえて、政治哲学などの研究成果を利用しているのかの2点を明らかにすることを目的としている。 以上の研究課題を踏まえて、「法の支配」、「立憲主義」、「平和主義」といった憲法の基本概念を政治学・政治哲学の議論状況を踏まえて再検討した。その研究成果の一端を論文のかたちで公にした。また、従来、政治哲学とは疎遠であったイギリス憲法学が、「憲法改革」以降、急速に政治哲学と接近している事実に注目し、「憲法制定権力論」に焦点を合わせつつ、分析・検討した。その成果は、学会報告および論文のかたちで公表した。 以上の研究は、憲法理論と政治哲学の理論的架橋という一貫した問題関心の下に行われたものであり、憲法理論に対して一定の意義を有するものと考える。また、「憲法改革」以降のイギリス憲法理論の動向(変貌)は十分に紹介されておらず、その意味でも意義のある研究成果であったと考える。実際、学会報告に対しては熱心な質問が多数寄せられた。
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