平成20年度に引き続き、最大化基準に基づく合理的意思決定のモデル化に関して研究を行った。さらに、平成21年度からは前年度からの研究成果を踏まえ、満足化基準の観点から4種類の意思決定問題を見直す研究を開始した。満足化基準は数学的には"~は許容できる"という単項関係として捉えられるので、その選好判断としての公理的な構造をそれぞれの意思決定問題において明らかにする必要がある。具体的には以下のようである。(1)4種類の意思決定問題のそれぞれにおいて、Trichotomous preferencesによる定量的選好表現がどのように実現できるかについての研究を行った。適用範囲は可算集合に限られるが、公理体系としては最も一般的な理論を構築し、'Additive measurement on countable sets'という論文にまとめている段階である。また、応用上重要なリスク回避という概念を主観的期待効用理論の中で展開した'Subjective risk aversion'という論文を投稿できる段階にまとめた。これにより、満足化基準の観点からのリスク回避という概念を定義するとっかかりを得ることができたと考える。(2)前年度と同じく、不確実性下の経済学における意思決定問題の類型化を検討し、意思決定問題の完全な記述可能性の問題点の検討を行った。そのため、不確実性下の経済学における各種モデルについて広くサーベイを行い、文献データベースを作成した。(3)平成21年度は特に行動論的ファイナンスや不完備契約行動における意思決定のモデル化を、満足化基準による枠組みで再検討することを試みることを開始した。
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