研究概要 |
初年度の研究計画の中核は、ニュートン『プリンキピア』に内在する神学思想を抽出するとともに、その社会科学的含意について考察することであった。まず、従来の中心的な研究成果であり、初めて翻訳された、フランク.E.マニュエル『ニュートンの宗教』(叢書・ウニベルシタス873)竹本健訳(2007年11月)の検討を行った。また、ニュートンを代弁したクラークとライプニッツとの著名な書簡論争については、既に取得してある1715年ロンドン出版のラテン語・英語対訳版Collection of Papers, Which passed between the late Learned Mr. LEIBNITZ, and Dr. CLARKE,in the Years 1715 and 1716.Relating to the PRINCIPLES OF Natural Philosophy and Religion. With and APPENDIX.を基本テキストとして、幾つかの新英訳ほかの関連文献を参照しつつ、内容の検討を開始した。 17世紀段階での英国知識人の個人的信仰と自らの科学的探求との整合性や意義付けについての一つのケーススタディとしての意義が、『ニュートンの宗教』からは読みとることができた。また、空間が神の「感覚器官」であるとするニュートン主義的神論・宇宙論と、「感覚器官」を通じた神の世界への介入という理解の持つ神の諸属性との不整合を批判するライプニッツの神論・宇宙論が対峙しているこの論争からは、初年度では、蓄積された科学史による研究成果を踏まえつつも、次世紀のヒュームやスミスに「ニュートン主義」として概括されることになる、18世紀英国啓蒙の社会把握の方法に通ずる自然神学的要素を抽出することができたと考える。これは、21年度に刊行される論文「ライプニッツ=クラーク論争における自然神学と社会科学」に結実し、こうした方向は、よりくわしく21年度に展開される。
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