本研究は、17-18世紀の世紀転換期におけるニュートン(1642-1727)ないしニュートン主義の神学思想と、急速に発展する商業社会の構造把握や商業に適合的な人間類型把握の試みとの内的関連を探求することを目的とした。具体的には、第一に、ニュートンの体系的世界観でもある『プリンキピア』にある彼の宗教的見解と、サミュエル・クラークを介したライプニッツとの神の存在と宇宙をめぐる論争に示された彼の世界像、社会像の特徴を社会科学的視点から抽出し、第二に、それが18世紀前半からの社会変化によく対応したジョゼフ・バトラー主教の教説や、ケイムズ卿、ヒューム、スミスら18世紀スコットランド啓蒙の思想家達の社会理論にどのように影響したかを明らかにしようとした。 最終年度は、第一に、研究成果の一部として平成21年度に刊行された「クラーク=ライプニッツ論争の社会科学的含意-神論から自然・人間論へ-」(『エコノミア』6巻1号、2009年5月)で概括的に示したニュートン主義の方法のスコットランド啓蒙への影響、特に、ケイムズ卿、マクローリン、ブレア、ヒューム、スミス、ターンブル、リードなどへの影響関係について詳細な検討を行った。第二に、それらを踏まえて主として神学的側面から、「ケイムズ『自然神学の原理についての論集』における社会科学の方法」、「D.ヒュームにおける"実験的方法"とニュートン主義」、「A.スミスの自然神学と社会科学」、「バトラー蓋然性論の社会科学的含意」等の論文(いずれも仮題)として順次刊行する準備をおこなった。第三に、ニュートン主義の社会科学的側面から、スコットランド啓蒙における商業社会分析と経済理論への展開の試論を、ヒュームやスミスに即して研究論文や学会報告、書評として発表した。これらの成果は、次に企画している神学と19世紀ダーウィニズム研究を加えて『自然神学と社会科学』(仮題)としての研究図書の中心となる。
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