本研究の目的は、セネガルを例に、アフリカにおける構造調整政策およびそれに付随する市場自由化政策の農民生活への影響を、農民の生計戦略に着目して、毎年実施する現地調査、および文献調査を通じて明らかにしようとすることで、今後検討しているアフリカにおける社会的経済の役割についての研究の端緒としようというものである。実のところ、調査は予定されていたよりも困難であったため、必ずしも予想された成果を十分に上げたとは言えないが、それでも、次の点が明らかになった。すなわち、独立以来の社会主義的開発政策は、結局農村に混乱をもたらしたが、しかしそれに代わって実施された構造調整政策も、やはり農村に混乱を引き起こした。そうした混乱の中で、農民たちは独自に農村組織を作って対処しているが、これは一方で、ハイデン(ヒデーン)の言うアフリカ的なモラル・エコノミーの現れと見なすことが可能であり、さらにその結果作られて農村組織の背景には、中世以来の結社(儀礼的な秘密結社やスーフィー的なイスラム教団)の伝統があり、現代の農民組織はその伝統的結社における人間関係の原理が現代の状況に適応したものであることが明らかになった。また、こうした中で市場自由化政策を推し進めて政府の機能を弱めようとすることは、かえって、政治の強権化・独裁下を進める契機となるという、矛盾した状況が生まれることも示された。こうした状況は、我々が既に調査を行ってきたフィリピンと対比してみると分かりやすい。同じように歴史的には人口稀少な途上国という条件から出発しつつも、フィリピンの経済力はセネガルよりもはるかに強いものであり、その原因は歴史的なものに求めなくてはならないのである。
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