研究概要 |
本研究の目的は, 日本農業の実態や既存研究を踏まえ, 農業法人の経営成長過程について, [農業法人の売上曲線は, 時間とともに右肩上がりを続けるのではなく, いずれ, 農業法人は売上の伸び悩みに直面する(これを農業法人の息切れ現象と表現する)」という仮説を検証することにある。 研究計画初年度には, 農業法人の息切れ現象が存在することを確認するための予備的調査として, 東北から九州に広がる設立後10年以上の農業法人20社程度(稲作+麦豆類,露地野菜, 茶, 養豚, 肉用牛, 農村観光)を対象に現地調査を行い, 農業経営者からの聞き取り調査と経営資料の入手によって, 農業法人の経営史的分析を行った。その結果, 経営規模(売上高指標および労働力指標など)の観点から, 経営成長過程における息切れ現象の存在が確認され, 本研究での仮説支持の可能性が高まった。また, 個別ケースによっては, かつて発現した息切れ現象がどのような経営管理手法を使って克服されてきたかについて具体的に観察することができた。これらの実態調査とその分析を踏まえ, (1)投資力, (2)価値創造力, (3)市場創造力, (4)経営持続力の4つから構成される「経営力」が息切れ現象の発現とその克服にとって重要な概念であるものとして考えられることが明らかとなった。 さらに以上の仮説および概念がより普遍的に成り立つかどうかを確認するために, 農業法人経営に関する大量のデータを収集するための郵送式アンケートの実施準備に着手した。民間信用情報機関が提供するデータベースにより, 全国3, 235の農業法人の概要(法人名, 代表者名, 所在地, 主業業種分類, 組織形態, 法人設立経過年数)を把握した結果, 本研究の目的を達成するために有効なデータであると判断され, アンケート実施体制が整備されるに至った。
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