従来、日本の会計研究は自己完結性が強く、他の領域の研究成果や知識をそれほど援用せず、隣接分野である経済学やファイナンスの昨今の発展にもそれほど注意を払って来なかった。また、実証分析においては、ある意味極めて制約的なその前提を問うことなく、もっぱらデータ相互の相関性を明らかにすることに主眼を置いた研究が続いている。それに対し、本研究は新古典派経済学に基づく現代ファイナンス理論を十分に咀嚼したうえで、実証会計分析の根拠を問いつつ、いかなる意味で会計情報が有用であるかを原理的に考察することを目指している。 本年度は、市場均衡論に基づく資産評価理論に会計情報を活用し得ること、ただし、会計研究の領域で採用されてきた従来の実証分析方法論を用いることによっては、会計基準の優劣を比較することには原理的困難さが存在することを、福井(2008)の第1部で総括するとともに、Fukui(2008)でその概要を示した。 さらに、物理学等、従来会計と無縁とされてきた分野の研究成果や知識を援用する第一歩として、ミクロ現象である企業の個々の投資行動とマクロの集計量である企業資産分布状態を、統計力学で注目されているツァリス統計を用いてモデル化する作業を開始し、Fukui and Takahashi(2008)を通じて発表した。 今後は、福井(2008)の第2部でスケッチした言語哲学の会計への応用をさらに進め、いかなる会計研究が会計基準設定に貢献し、ひいては経済厚生を改善し得るのかを検討したい。
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