従来、日本の会計研究は自己完結性が強く、他の領域の研究成果や知識をそれほど援用せず、隣接分野である経済学やファイナンスの昨今の発展にもそれほど注意を払って来なかった。また、実証分析においては、ある意味極めて制約的なその前提を問うことなく、もっぱらデータ相互の相関性を明らかにすることに主眼を置いた研究が続いている。それに対し、本研究は新古典派経済学に基づく現代ファイナンス理論を十分に咀嚼したうえで、実証会計分析の根拠を問いつつ、いかなる意味で会計情報が有用であるかを原理的に考察することを目指している。 本年度は、昨年度刊行した拙著『会計測定の再評価』第1部を通じて明らかにすることができた実証研究の限界を踏まえて、応用ミクロ経済学の一部門に終わらない、いかなる会計固有の研究があり得るかを考察した。 具体的には、前掲書第2部でスケッチしたジョン・サールの言語哲学とともに、カール・ポパーやイムレ・ラカトシュらの科学方法論を用いて、単純な存在当為二元論を超えた社会的事実としての会計を、基礎概念に遡って分析した。その成果は、現時点における日本の会計研究の集大成を企図した『体系現代会計学(全12巻)第1巻』(近刊)にて、「会計研究の基礎概念」として発表される予定である。 世界の会計研究をリードする米国においても、会計学会(AAA)年次総会で研究のルーティン化・綾小化が論題として取り上げられるなど、会計という学問の基礎を問う傾向が強まっており、今後は、ここまで進めてきたいわばメタ会計研究ともいえる視点から、実証研究から遊離した単なる思弁的「べき」論に陥らない、新たな会計研究の可能性をさらに追求していきたい。
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