初年度は、方法の模索をしつつ、社会学と発達障害研究と臨床心理学との、3種の知的基盤間の擦り合わせを行った。また、予備的調査と準備的分析を行った。具体的には、(1)『日本臨床心理学会』の全体会シンポジウム等において学際的討議を行った(2008年9月、10月)。(2)アスペルガー症候群と診断された青年に対しての文章完成法検査(SCT)とその前後のコミュニケーション状況の撮影を行った(2009年1月)、(3)ビデオセッションを行った(2009年3月)、(4)D.メイナード著「自閉症からの教訓(social problem誌所収)」ほか関連論文・書籍の輪読会を行った(徳島・大阪および東京での研究会を合計6回行った)。 以下、我々の研究の意義の確認と展望について述べたい。我々の分析は、以下のような2つの結論に繋がっていくだろう。(1)自閉症児/者としての生活の蓄積が、コミュニケーションの形を、環境適応的に変形させているらしいこと(例:‘文字通りの反応‘を、相手に受け入れてもらうためのテクニックが'文字通りの反応‘そのものとは別種のコミュニケーションの質を当事者にもたらしている)。 (2)その新しい質のありようを十分に理解すれば、「アスペルガー症候群であること」に関して、いわゆるその症状を疾病・障害の本質に依存させるような無理な議論を医学的に立てなくても、現状に関して十分根拠のある、見通しのよい議論を立てることが可能である、と言えそうなこと(例:思考の谷間に落ち込んでしまったようなときに、たんに苦しそうにしていたのでは、他者から心配されてしまうことから、それをさけようとして、当事者は少々大げさな自己卑下などをしているようだった。このような「適応プロセス」のビデオによる詳細な裏付けが得られれば、「アスペルガー症候群であること」の意味が立体的に解明されていくように思われた)。上記、2つの結論をさらに精密に例証していくことが、平成21年度以降の課題である。
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