本研究は、絶滅危惧種の野生復帰や自然再生が事業化するなかで、地域環境の再生に向けて、当該地域で培われてきた現場知を環境社会学的な調査による記述と分析により組織化し、それを基軸としながら地域環境の再生モデル構築及び政策提言していくことを目的とする。 (1) 現場知、(2) 地域環境の再生モデルに関する調査研究を、申請者がかかわっている豊岡市のコウノトリ、北海道釧路市・鶴居村のタンチョウ、能登半島のトキを事例に実施した。 タンチョウとの共生を目指した地域づくり活動が展開している北海道鶴居村で、行政、NPO活動家、チーズ職人、タンチョウと共生する村づくり委員会などを対象にフィールドワークを実施した。タンチョウを軸にした地域資源化が進み地域再生が目指され、現場知や組織主体を統合する社会的仕組み(村づくり委員会)の形成が進展していることが確認できた。村づくり委員会主催の勉強会でコウノトリの経済効果について講演し、経済効果の調査に参画した。NPO(タンチョウ・コミュニティ)が地域再生の軸になっているモデルと考えられる。 能登半島ではトキの野生復帰を目指した活動が展開している一方で、過疎化が顕著である。金沢大学は「能登半島マイスター養成講座」を開講し、人材育成を進めている。このプログラムを対象にフィールドワークを実施し、自然再生は地域で人が住むための選択肢を創出する取り組みであるというモデルを抽出した。 フィールドワークの成果を踏まえ、東京で「自然再生の現場から環境社会学の知を問い直す」という研究会(環境社会学会の研究例会と共催)を開催した。講師は、桑子敏雄氏(佐渡のトキ)、中村浩二氏(能登マイスター)、茅野恒秀氏(赤谷プロジェクト)である。報告において現場知や「聞く」という手法の重要性が指摘され、さまざまな主体や機関、価値観をつなぐコーディネーターの必要性が確認された。「聞く」という手法を持つ環境社会学者は、自然再生の現場においてコーディネーターの役割を果たす可能性を大いに有していることも議論された。
|