本研究は、近年注目され始めているソーシャル・キャピタル論を計量的把握により援用し、その課題性を検討したうえで、地域の人間関係のありようを組み入れた新しい視点による地域福祉の方法論を明らかにすることを目的としている。平成20年度は主に、地域福祉やソーシャル・キャピタルに関する先行研究のサーベイを目的として、国内外における文献の渉猟を行った。その結果から得られた知見について、総合的な精査には至っていないものの、地域福祉活動にソーシャル・キャピタル論を組み入れて考えようとする場合、その効果には行政による介入・支援が大きく影響を及ぼすのではないかという仮説が浮かび上がった。 また、平成21年度での調査に向けて、S市における「宅配サービス」、「小地域ふれあい・いきいきサロン」及び「ボランティア登録数」について資料確認を行ったところ、その現状には小地域ごとに大きな差異(サービスの規模・利用登録者数が「縮小している地域」と「飛躍的に伸びている地域」など)があることが判明した。以上のことから、平成21年度はS市での調査をもとに、地域福祉活動の現状における地域間差異とソーシャル・キャピタルの関係、さらには行政等の介入による影響等について実証していきたい。 最後に、平成20年度は、ソーシャル・キャピタルをテーマとした研究会に数回参加でき、情報収集や意見交換などの研究交流を活発に進めることができた。このことは、まだ尾に就いたばかりといえる地域福祉分野でのソーシャル・キャピタル論を展開していくうえで大変有意義なものとなった。
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