研究概要 |
隣接する二つの空虚時間の知覚は,互いに影響を及ぼしあう。特に,似た長さの時間間隔が,一層似ているように感ぜられる同化現象は,日常生活における時間知覚,リズム知覚の仕組みを解明するうえで重要である。今年度は,聴覚における同化現象が,異なる周波数において独立に生ずるかどうかを調べるために,種々のデモンストレーションを作成した。例えば,1000Hzの区切音を用いて,100,160msの空虚時間を隣接させ,4000Hzの区切音を用いて,160,220msの区切音を隣接させ、共通する160msの空虚時間が同時に呈示されるようにタイミングを調すると,1000,4000Hzの周波数において別々に時間間隔の同化現象が生じ,同時に示される160msの空虚時間が,区切音の周波数によって異なる時間長を有するように知覚される。これは,周波数帯域によって別々の時間知覚の仕組みが働いている可能性を示唆しており,時間知覚と聴覚体制化とをきり離して研究すべきでないことが判る。聴覚に生ずる時間間隔の同化現象については,精神物理学的なデータと事象関連電位のデータとを,関連付ける実験を行った。すなわち,継起する3つの短音によって,隣接する2つの空虚時間を示し,実験参加者に時間長の異同判断を求めると同時に,事象関連電位を記録した。精神物理学的なデータにおいては,これまでの研究に見られたような同化現象を確認した。事象関連電位においては,第一の時間間隔に対する注意,記憶にそれぞれ対応すると考えられる成分を見出した。さらに右前頭部領域に,隣接する時間間隔を比較することに対応すると考えられる緩徐な陰性成分を見出した。この成分は同化現象が生ずるときには減衰する。このように,従来の精神物理学的な研究において得られた時間知覚のモデルを電気生理学的なデータと結びつけることができた。
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