本研究の意義は、日本の近・現代児童文学研究においてほとんど注目されてこなかった沖縄の児童文学に着目した点にある。本研究ではまず第一に、沖縄においても大人の文学のみが注目されてきた山之口貘と伊波南哲の児童文学作品を発掘し、書誌事項を明らかにする。第二に文学者の生育史、教育史と当時の教育界の動向とを重ね合わせ、さらに周囲への聞きとりも網羅しながら両者の児童観や作品の持つ歴史的意味を分析・考察することを目指している。本年度は昨年度からの継続で以下の点で研究成果をあげることができた。 1.伊波南哲、山之口貘の児童雑誌の掲載作品を発掘したこと。また貘に関しては新資料だけでなく教科書掲載作品、アンソロジー収録作品についてもリスト化できた。 2.伊波南哲の児童雑誌掲載作品を手がかりにしながら南哲の作家としての戦前・戦中・戦後の歩みをたどり、作品の特徴や主題・思想について考察した。これに関しては21年度の日本児童文学学会の学会誌に掲載され、研究成果を世に問うことができた。 3.学会、および研究会にて研究発表を行い、研究成果を世に問うことができた。 4.児童雑誌掲載作品の調査と合わせて、すでに絶版になっている山之口貘、伊波南哲の著書を古書店等で入手し、資料収集に努めている。 以上のように今年度は伊波南哲、山之口貘ともに未発掘資料の確認をし、両者の創作の核になる部分について考察を深めることができた。
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