平成20年度は、先行研究の探索と整理、および史料の収集が主たる目的であった。宮本は20年11-12月にニューヨーク大学、ニューヨーク市公文書館、およびスタンフォード大学を、佐藤は平成21年3月にティーチャーズ・カレッジを訪問し、史料を収集すると同時に、教育史研究者に会って、米国における研究の状況を確認した。先行研究から、紙と鉛筆が19世紀の半ばに普及したこと、成績評価の客観性と能率向上を主な目的として、ペーパー・テストが19世紀後半に採用され始め、19世紀末に普及したことなどを知ることができた。しかし、学校現場での試験の実態についての研究は少なく、ペーパー・テストの普及が授業にどのような影響をもたらしたのかは解明されていなかった。 そこで、宮本は、19世紀後半に書かれた教授理論書の収集と分析を進め、ペーパー・テストの普及によって、授業と試験との乖離がもたらされたことを突き止めた。19世紀半ばまでは、試験は、授業者が口頭で、個別に行なうことが普通であった。しかし、多くの生徒を対象に能率よく成績をつけるにはペーパー・テストが有効と主張する教育行政官が出現した。さらに、学年制が導入されると、彼らは進級の基準が客観的であることを要求するようになり、進級試験の判定に授業者が関与することは制限されるようになった。こうして、能率と客観性が追求されるなかで、試験が授業を改善するための手段という側面が捨象されてしまった。佐藤が分析を進めている20世紀の進歩主義学校でも、教師は当初、ペーパー・テストの精度を上げようと試みていたが、実験を重ねるうちに、ペーパー・テストが学力の一面しか見ていないこと、しかも、授業の改善にはつながらないということに気がついた。そこで、教師はペーパー・テストに代わる新しい評価方法を模索し始めたのである。
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