本研究の目的は、多文化社会において顕在化するイスラモフォビアに対して学校教育がいかなる対応を求められるかを探るべく、その理論的動向を踏まえた上で、英国のムスリム多住地区の小学校を事例に行政支援体制や学校現場での取り組みを分析し、アンチ・イスラモフォビア教育(AIE)の有効性と今後の実践的な課題を示すことにある。平成20年度は「AIEをめぐる理論的枠組みの整理と英国の政策理念・指針の分析」を中心に、以下のように研究を実施した。 1.イスラモフォビアやAIEに関する先行研究の収集・分析:国内外の先行研究を収集・分析し、その理論的枠組みやアプローチを整理した。その結果、1996年に設置されたThe Commission on British Muslim and Islamophobia: CBMIが翌1997年に発表した報告書"Islamophobia:a challenge for us all"を嚆矢に、欧州をはじめ国際組織やイスラーム組織において、この思想が現代的文脈で広く用いられるようになった経緯が明らかとなった。 2.英国におけるAIE実施をめぐる社会的背景や政策理念・指針の分析:AIEを支える法律や制度の整備状況、AIEに関わる政策理念や改革指針について、国内外の関連資料を収集し、分析に着手した。分析を通して、多くのムスリム団体が政策に積極的に働きかけている状況が明らかとなった。 3.AIEの基本施策に関する現地調査実施:ロンドンおよびブラッドフォードのAIE政策関連組織を訪問し、AIEの基本施策に関する現地調査を実施した。 4.資料の収集整理とデータベース化:実施した調査研究を通して、国内外で入手したイスラモフォビアやAIEの理論的枠組みに関する資料や文献等を整理し、データベース化に着手した。
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