本研究は、明治期における唱歌教育成立期において「階名」に関する理論がどのように、生まれ展開してきたかについて明らかにしようとするものであった。すなわち、次のような仮説を実証しようとするものである。 「階名は日本人にとって西洋音楽を理解する重要な道具であった。また日本音楽の特質を西洋音楽の理論から明らかにするための道具でもあった。その階名のそのような役割は現代においてもかわらない」 本研究の仮説を実証するために、平成20年度は主として次のような研究を行った。 1. 該当する時代の、唱歌教科書、楽譜、理論書などの一次資料及びそれに関連する二次資料を収集分析した。その結果、階名が西洋音楽を理解する重要な道具であり、また日本音楽を理解する道具でもあったことが明らかになった。しかしながら、西洋のドレミに代わるものとして、日本では「ヒフミ」が使われたこともあって、後に階名が「機能音高名」と捉えられる混乱があった。 2. 日本音楽の研究者、演奏家、教師などに、階名の意味や使用状況についての聞き取り調査を行った。日本音楽研究においては、必ずしも階名という概念が共通に理解されているわけではなかった。演奏家については、階名を日本音楽の理論を説明するための道具として活用している例があったが、ほとんど活用していない例もあった。音楽教師の世界では、学習指導要領で「移動ド」を原則にしているにもかかわらず、階名としてのドレミの活用は今回調査した限りでは見受けられなかった。 理論や一部の例では、階名が有効なものであることは明らかになっているが、現状では使われていないことが明らかになった。 なお、研究成果を論文や学会発表などで好評するには至っていない。
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