研究概要 |
本年度の研究内容は大きく二つに分類される。一つは教材開発に向けた文献資料の収集及び比較検討であり,一つは聴き取り調査である。 文献資料については,日本と中国の小中高で使用されている国語(中国では語文)教材を収集し,比較検討した。その結果,日中関係とりわけ日中戦争に関する教材はきわめて少なく,中国側では皆無であることが分かった。しかし,魯迅の「藤野先生」のごとく日中に共通する教材があることも分かった。ただ注意すべきは,同じ作品を扱いながら,教え方には相違があることである。中国では「藤野先生」は魯迅の愛国主義と結び付けられているが,日本ではこのような教え方は考えられない。この事実は共通の教材を開発する場合,教え方を含めて共通の理解を得る必要性を認識させるものであった。 聴き取り調査については,日中の初等中等教育に携わる教員から参考意見を聴くべく実施した。日本では8月,金沢市内の小中高に勤務する教員から個別に意見を聴取した。中国では3月,北京師範大学の附属学校の教員から意見を聴取した。その結果,日本側の教員からは本研究の目的に添うのではないかと推薦される教材もあった(例えば,あまんきみこ氏の「雲」)。一方,中国側からは具体的な教材は示されなかったが,本研究の目的を踏まえて考えると,満州(中国側の表記は満洲)関係の作品であれば,共通の教材を開発できる可能性があるのではないかとのアドバイスを受けた。 本年度の研究を通じ,取り上げるのにふさわしい作品の内容など,教材開発の方向性はほぼ定まったので,次年度以降,この方向性に基づいて翻訳等の作業を進めていきたい。
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