発達障害児の運動機能については、近年、知的障害児の巧緻性の低さや、自閉症スペクトラム(ASD)児の模倣行動や円滑な運動遂行の困難さなどが指摘されているが、客観的生理指標に基づく中枢機能評価に関する検討は乏しい。平成21年度より、知的障害児(ASD児を含む)の動作の観察・遂行時の脳機能状態を、脳波基礎律動の事象関連性変動を用いて計測してきた。平成22年度は、これまでの計測データを連携研究者と共に解析・検討し、成果の公表を通して以下のことを提起した。(1)脳波基礎律動のα波成分であるmu波の事象関連性変動は少ない試行で計測できるため、障害児の中枢運動機能の定量計測に適している。(2)ASDではない知的障害児では、複数要素から構成されるボール操作よりも単純な手の開閉動作課題でより脳活動が高まる。(3)ASDを伴う知的障害児では、単純な課題であっても動作の観察と遂行に関与する脳機能が低下している。(4)発達障害の種別によって異なる特徴がmu波の動態により定量的に計測でき、客観的評価指標として中枢運動機能の状態把握に有効である。(5)発達や指導経過におけるmu波の変動を追跡することは、発達障害児の運動機能発達経過の検討と効果的な運動機能支援法の開発・導入に寄与する。(6)動作の観察・遂行の事態は、自己以外の他人を認識し適切に働きかける事態に依拠する社会性と共通の行動基盤があり、運動機能の向上指導は社会性支援につながる。 今後の研究進展上の課題は以下である。(1)さらなる計測データの積み重ねにより、生理学的尺度であるmu波の動態と対人関係やコミュニケーション等の社会性の発達段階を示す心理学的行動尺度との相関関係を定量的に検討する。(2)ASD児を中心とした発達障害児の中枢運動機能を向上させる支援の要件について考究する。
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