重症心身障がいのある人は、表出行動に著しい困難がある。そのため、言語・非言語コミュニケーション手段を用いて、意図や感情を伝えることが難しい。療育にあたるものは、自らの働きかけが届いている、本人に快適な刺激であると想定して支援にあたっている。しかし、本人に不快なもしくは届きにくい刺激を提示している可能性も否定できず、その結果、支援者の自己効力感の低下につながる場合もある。より適切な支援のあり方を求めて、重症心身障がい児・者では、覚醒状態や緊張、注意の様相について客観的評価が求められている。 本研究は、重症心身障がい児・者の個別の指導・支援計画における評価ツールとしての瞬きの活用を試みるために、対人刺激の提示による瞬きの変化を検討した。記録への協力者は、重症心身障害児病棟に入院する80名の患児・者である。今年度は最終年度になるので、3年間の取り組みを総括した。明らかになったのは以下の点である。 ○追視や表情変化など表出行動の乏しい事例でも、働きかけにより瞬きの頻度や速さに変化が見られた。 ○瞬きの全くみられない事例、極端に頻度の低い事例が対象者の半数を占めた。 ○瞬きの様相に経年変化の現れた事例があった。 表出行動の乏しい事例でも、働きかけによって瞬きの頻度や速さに変化があることを記録できたことは大きな収穫である。覚醒や情動の表れとして本人理解の指標となるだろう。重症心身障害児・者では、極端に瞬きの頻度が少ない例が多かったが、この背景については他指標の導入などによって明らかにしていく必要がある。また、3年間の記録を比較検討したところ、経年的変化のみられた事例があった。先行研究から乳幼児では瞬きに発達的変化が観察されることが分かっている。今後は、認知・行動の表出行動を詳細に観察し、瞬きの発達的変化をとらえていきたい。これにより、瞬きを指標とした神経系の発達にも論を進めていけるだろう。
|