[A]一昨年頃、種数17のgenericな偏極K3曲面を非可換Brill-Noether論的に記述することに成功した.これに刺激されて、K3曲面の上のベクトル束と向井格子を組織的に使うことによって、他の高種数generic偏極K3曲面を適当なモジュライ空間の中でカノニカルに記述することを試みた. 1. 種数16のK3曲面が空間有理3次曲線のモジュライの中に出現することは前から知っていた.そのK3曲面がgenericなものであることを示すことが問題であったが、Picard数が2で7次楕円曲線をもつ場合を考察することによってそれを示せるのではないかと現在いろんな計算をしている.genericな場合は空間のどの点をとってきても、K3でパラメータ付けている有理3次曲線の中でそこを通るものは有限個しかない.今問題にしているK3の場合、この性質が1点で崩れる.これは悪いことのように見えるが、このおかげでK3曲面が調べやすくなるのがポイントである. 2. 種数17のgeneric偏極K3曲面の非可換Brill-Noether論的記述は種数5の曲線上の階数2のベクトル束のモジュライを用いた.これと同様の考えで、種数3の曲線上の階数3のベクトル束のモジュライ空間を用いて種数19のgeneric偏極K3曲面が得られないかを調べた. 3. 第1項目の「空間有理3次曲線」を「平面内の6点」に置き換えて、適当な束縛条件を課すことによりモジュライ空間の中に種数21のK3曲面を得ることができる.これは別の問題と関連して昔のノートを調べていてその中に発見した.この場合は種数17で苦労したように、偏極がprimitiveであるかどうかが問題となる.Picard数が2の良い例を構成する方法でもってモジュライの単有理性に挑戦した. 4. カリフォルニア大学Bakeley校の数学研究所滞在中にK3型の偏極4次元symplectic多様体の新しい例を学んだ.これに刺激されて、上の諸研究をK3から4次元symplectic多様体に拡張することを試みた. [B]エンリケス曲面の自己同型の研究中、乗法的階数が小さい位数2の自己同型に対しては、有理楕円曲面が定まることがわかった.さらにこれを介してE8型Lie環の次数付けも定まることがわかった.できれば、乗法的階数が大きい場合にも次数付Lie環を対応させたい.
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