研究概要 |
前年度に引き続いてEnriques曲面の自己同型と高種数K3曲面の記述を研究した. [A] Enriques曲面の対合(位数2の自己同型)とルート系の関係をより組織的に調べた.コホモロジー的に自明なものはE8型に、そうでないが数値的には自明なものがD8型かE7+A1型に対応する.また、数値的に鏡映な場合はE7型とD6+A1型の2種に分類される. Enriques曲面の対合を、その周期から復元する問題にも進展があった. 数値的に自明な場合はほぼ解決していたが、コホモロジー的に自明な場合に偶bielliptic Abel曲面のKummer曲面の表示を使うより良い復元法を発見した.数値的に鏡映の場合の2種のうち、D6+A1型の場合はK3被覆がKummer 4次曲面になるので、復元問題はすでに2008年のプレプリント"Kummer's quartics and numerically reflective involutions of Enriques surfaces"(投稿中)で解決されている.今年度はE7型の場合を扱い、Richelot同種や2次曲線網を使って復元問題を解決した. [B] 高次偏極K3曲面については、2008年度から続けてきた次数30のgenericなものの研究が進み、有理3次曲線のモジュライ空間の中での良い記述を得ることに成功した。特に、それらのモジュライ空間は単有理的であることが示される。また、primitiveで次数32の場合のモジュライ空間の単有理性については、証明に必要な曲線の線形切断定理を既知のもの(Mukai,1993)で済ませられることを発見し、証明が大きく簡易化された。両者について現在、論文を準備中である。
|