当該研究課題の研究目的、研究実施計画に基づきコンクリート・鉄接合梁(以下接合針とよぶ。)の損傷を、接合梁の有限個のスペクトルを計測することにより同定する逆問題(以下接合梁損傷同定逆問題とよぶ。)について研究した。 まず、研究内容の説明に必要な事項の説明を行う。接合梁損傷同定逆問題のモデルは、斉次境界条件を持つある常微分方程式系の固有値(スペクトルと同義語)逆問題になる。そして接合梁の損傷は、接合梁損傷同定問題の常微分方程式系の幾つかの係数値の変化として捉えることが出来る。いまこれら係数をある範囲内で動かすものとする。このときこれらの係数を与えるごとに、計算で得られる固有値と計測で得られる固有値との差のL^2ノルムの二乗(以下最小二乗汎関数とよぶ。)が計算できる。そこでこの最小二乗汎関数の最小値を与えるようにこれらの係数を指定範囲内で求めることができれば、そのときのこれらの係数値から接合梁の損傷度が計れる。 次に研究内容について説明する。最小二乗関数の最小化問題の解法には、良く知られた共役勾配法を用いた。この共役勾配法の適用に当たっては、最小二乗関数のこれら係数に関する方向微分を求める必要がある。それは固有値のこれらの係数に関する方向微分を求めること(以下固有値の摂動公式導出問題とよぶ。)に帰着される。 今回の研究では固有値の摂動公式導出問題を解決し、その結果を用いて以上のような考察に基づく解法を数値実験により検証し、良好な数値計算結果を得た。 接合梁は、橋梁や構造物の床等に見られる一般的な構造ユニットである。インフラの寿命診断は、現在緊急に求められている社会問題である。接合梁の非破壊検査では、スペクトルが基本的な計測データである。従って、今回の研究成果がインフラの寿命診断に一役貢献するものと思われる。
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