「侵入」と「阻止」という相反する効果によって引き起こされる複雑な生物個体群の生息パターンを数値解析の観点から扱った。特に、「阻止」という現象をモデル化する際に「吸収効果」も広い意味での「阻止」の一つとして考える事によって「分離・融合」というより興味深い現象を発見する事ができた。これが本年度の新しい成果であるとともに萌芽研究として新しい方向性も得る事ができた。更にこれらの現象を再現する新しい数値計算法である階段関数的メッシュ生成法については、扱う数理モデルには非線形双曲型方程式(Riemann問題)が含まれている事に留意して研究を遂行し、以下の実績が空間1次元において得られた。 1.初期値問題で構成したRiemann問題の差分化をある条件下では初期境界値問題にも適用できる事が数学的に得られた。即ちエントロピー条件を満足させる事が可能となった。 2.初期値問題では、サポートの「分離・融合」及びその繰り返し現象即ち「生物の住み分けパターン」の挙動が数値的に再現され、その現象の正当性も数学的に証明された。 3.初期境界値問題に対する数値結果では、境界からの流入効果の周期性とその振幅に関して以下の数学的に興味深い現象が得られた。 ・ある値を対称にして振幅を一定とした時、長周期の場合にはサポート(住み分けパターン)は「分離・融合」を繰り返すが、短周期にすると分離現象が現れない。 ・一方、その値を若干小にして振幅を一定とした時、周期を短くしてもサポートは分離したままで融合しない。 4.階段関数的メッシュ生成法を用いた数値計算法の収束性の証明が可能になりつつある。
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