結晶成長現象を記述する方程式で最も簡単なものは、結晶成長の法速度Vが結晶方位(法ベクトル)nにのみよる関数M(n)>0に比例する場合である。M(n)が定数の場合はいわゆるホイヘンスの原理で結晶が成長する。一方、結晶成長形にはしばしばファセットと呼ばれる平らな面が現れる。これはMがnによるような異方性を持つ場合、V=M(n)c(c>0定数)に直線部分(平面部分)を持つ自己相似解を持つ場合である。結晶成長学では、cが定数ではなくても、それが定数に近ければファセット面は維持されると考えられているが、数学の枠組みではファセットが崩れず成長するためには、明らかにcは空間方向について定数である必要がある。 前年度には、この問題に対してミクロスケール、ミクロ時間を導入し空間一次元の問題を定式化した。そのハミルトンヤコビ方程式は非強圧的で従来の枠組みでは扱えなかった。前年度の解析をより一般化し、また高次元の問題に適用できるように非強圧的ハミルトンヤコビ方程式の解の新たな概念を導入した。これにより少なくとも1次元の問題に対しては時間無限大での解の挙動とその漸近形が明らかになった。漸近形はもとのハミルトンヤコビ方程式のある種の定常解であるが、その解は考えている領域の一部だけで定義できるものであることがわかった。高次元問題の取り組みは現在進行中である。
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