本研究では、素粒子物理学実験の分野で使われている高価で小型の放射線検出器であるシリコン半導体検出器に対して、これに取って代わる安価で大型検出器にすることができる新しい半導体放射線検出器を開発する。安価で大面積や大体積で使用できる有機物半導体センサーの開発を行う。有機物半導体を用いて、ダイオード構造を含む各種の構造の放射線センサーを作り、その高感度化を行う。本研究は最小電離損失粒子(Minimum Ionizing Particle: MIP) 1個をリアルタイムで捕らえることができる有機半導体放射線検出器を開発することを目的としている。 1)有望な有機半導体の1種であるポリアニリンの溶液と導電率を調整するためのP型やN型のドーパントを混ぜた後に、キャスティング等を行って成型し、表面に金蒸着を施して電極を形成し、信号読み出し用のリード線を取り付け、有機半導体センサーとして完成した。次に、このセンサーの電圧・電流特性を測定し、電気伝導度を求めた。ドーピングの仕方によるが、PN接合センサーの抵抗値で数GΩのものを製作した。このドーピングレベルの場合には、顕著なダイオード特性(順逆方向非対称性)は表れなかった。 2)導電率を左右するドーパントの種類と量やセンサーの形状など、有機半導体センサーを試作するときのパラメータとなる量の値を変えながら各種の試作センサーを作った。これに高速プリアンプをつなぎ、バイアス電圧をかけて放射線源からのα線やβ線を入射した。発生したキャリヤ電荷の信号をマルチチャンネルアナライザー(MCA)によって測定した。PN接合型センサーによってα線の信号を効率良く観測することができた。また、β線についても、いくつかのセンサーで観測することができた。今後、上記の各種パラメータの値を調整し、より高感度なセンサーを試作していく。平成20年度の研究によって、β線1個(MIP相当)のエネルギー損失による信号を高効率で捕らえることができるセンサーを作るための基礎的知見が得られた。
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