フォトニッククリスタル中に設置した光電陰極から電子ビームを発生させ、さらに光局在モードによる加速について、実験的および理論的な研究をすすめた。加速構造として表面局在プラズモンに着目した。金属と真空などの界面には表面局在プラズキシと呼ばれる光局在モードが存在することは既に知られているが、本研究ではその粒子加速への応用についてまず検討した。その結果、誘電体の表面に10ナノメートル程度の薄い金属膜を蒸着したものを用意し、二つの金属膜で100ナノメートル程度の真空ギャップを形成することで、真空ギャップに粒子加速が可能な局在モードが発生することがわかった。金属で囲まれた構造中に発生するプラズモンの粒子加速への応用は従来から検討されてきていたが、外部と全く隔絶された孤立光モードであるため、外部光からの励起方法が明確ではなかった。本研究ではエバネッセント波の励起に用いられるクレッチマン配置からの類推により、表面プラズモンを局在させるための金属の一部を10ナノメートル程度と薄くすることで、モードの局在は維持しつつ、外部光との結合が可能であることをしめした。この二つの条件は矛盾するようであるが、外部からの入射光と真空ギャップに局在する光が結合した状態が固有モードを形成する条件を求めることで実現した。このモードでは出射モードの伝搬波数は虚数となり、伝搬せずに局在する。 電子発生に使用するGaAs陰極は従来から高性能光陰極として注目されてきたが、特性が時間的に劣化してしまうことが問題となってきた。本研究ではフォトニック結晶中での電子発生に使用した場合に予想される加熱により、その特性がどのように変化するかを実験的に研究し、温度が70度C程度で性能が急激に劣化することを確認し、フォトニッククリスタルレーザー電子銃全体を冷却する必要があることがわかった。仮に液体窒素温度程度に冷却すると金属の抵抗率が減少し、光による加速効率が大幅に上昇するという副作用が予想される。本研究により、冷却フォトニック結晶レーザー電子銃の概念がより明確となった。
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