本研究は、古くから関心の的でありながら未だ理解されていないホタル生物発光の発光色決定機構の解明に迫ることを目的としている。このための具体策として、高い精度で生物化学溶液発光の絶対定量分光計測を行うための技術装置開発を進め、量子収率の評価や、種の異なる生物など様々な発光酵素にまたがった発光スペクトルの直接比較を行えるようにしたうえで、pHや温度・たんぱく質の構造など各種の条件に応じて変化するホタル生物発光スペクトルと全光束の定量計測を行うことを目指している。 平成20年度は、産業技術総合研究所・光放射標準グループによって国家標準トレーサブル校正が行われたフォトダイオードと、併せてダングステンランプおよび干渉フィルターを用いた光源を用いて、生物発光絶対量分光計測装置の校正を開始した。しかしながら、天然北米産ホタル(Photinus pyralis)の精製ルシフェラーゼを用いて、ホタル生物発光の量子収率計測のpH依存性と温度依存性の実験を)行ったところ、我々の過去の測定値41.0±7.4%との大きな食い違いが生じてしまった。新しい道筋での校正手順の中での問題や、実験担当大学院生の入替りによる試薬管理・試料調整・反応応条件の制御などの熟練不足などが疑われるので、今後、それら両面からのチェック作業を行い追試・解決を試みる。 一方、たんぱく質の構造依存性評価を開始するために、天然北米産ホタルの精製ルシフェラーゼ(Sigma製、製品番号L9506)と、ゲンジボタルルシュフェラーゼ遺伝子を大腸菌で発現させたリコンビナント・ルシフェラーゼ(Wako製)の発光スペクトルおよび発光量比較の実験を行った。5-10%程度の発光量とスペクトル形状の違いが検出された。今後、上記の校正における問題を解決し、絶対値データとして値付けを行い、他の種や条件下でのデータと定量比較する。
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