本研究は、中性子の吸収により、異なる価数状態が安定な別の元素が生じ場合のキャリヤードープ効果を利用し、通常の元素置換法による化学的ドーピングでは不可能な合金や化合物へのドーピングを試み、新しい物性を探索するのを目的としている。通常は、この核変換ドーピングに加えて、核変換により発生する高エネルギー粒子が与える効果を伴うと予想される。今年度は、中性子照射した試料のX線構造解析と磁化測定を行い、中性子照射による両者の影響の評価を行った。反強磁性絶縁体のLa2CuO4(LCO)への中性子照射効果は、LaがCeに変換する電子ドーピング、さらに半導体SiCやボロンをドープしたSiCへの中性子照射では、SiへのPドーピング、あるいはBからLiへの核変換によるドーピングが期待される。その結果、中性子照射により、LCOではごくわずかな格子定数の増加と、非晶質的なバックグランドが生じることが明らかになった。また反強磁性転移温度もごくわずかに低下するとともに、転移温度近傍での磁化率のピークがブロードになることがわかった。この変化は、ごくわずかなキャリヤードープと同時に、高エネルギー粒子による構造乱れが、中性子照射で生じることを示唆している。 このように中性子照射で予想されるキャリヤードープ量がごく微量であるため、物性や構造変化がどの程度のキャリヤー量で検知可能かを、化学的キャリヤードープにより検証した。その結果、絶縁体でキャリヤードープ量がゼロ近傍のモット絶縁体では、ごく微量のキャリヤードープ量でも、磁気構造が大きく変化することが判明した。ドープ量をさらに増加させるために、より長時間の中性子照射を新たに行った。現在は放射化レベルが高いため、次年度以降に同様な測定を行う予定。
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