物質中の特定の原子核に中性子を吸収させ、核変換により物質の構成元素とは異なる元素を作ることができる。本研究は、核変換によるドープ効果を利用し、通常の化学的ドーピングができない合金や化合物、あるいは単結晶への直接ドーピングを試み、新しい物性を探索することを目的としている。前年度の結果では、中性子照射量がわずかなため、中性子照射による局所構造変化と核変換ドーピング効果を分離することが困難だったので、今年度は、前年度に行った2度目の照射試料の残留放射能の低減を待ち、中性子照射量を増やした試料について、X線構造解析と磁化測定を行った。これにより中性子照射量依存性の評価と核変換ドーピング効果の抽出を試みた。(1)反強磁性絶縁体La2CuO4では、照射量を増やした試料についてさらに定量的な解析を行った。その結果、格子定数はa軸とc軸共に照射量に対し、ほぼ線形に増加し、体積増加が認められた。また反強磁性転移温度も照射量と共に低下するが、同時に相転移が急激にブロードになることがわかった。前者の傾向は化学的ドーピングとは定性的に異なっており、La2CuO4に見られる照射変化は、大部分が核変換に伴う局所環境効果であると考えられる。 (2)ホウ素ドープしたSiCへの中性子照射効果をx線構造解析で調べた結果、新しい回折ピークが現れることがわかった。このピークは33Rや51Rといったc軸方向に長周期性を持つ構造から現れ、中性子照射でc軸方向の周期性が影響を受けることが明らかになった。現段階では核変換でのPドーピングによる影響かどうかは明らかでないが、今後の新しい課題が浮き彫りになった。 (1)、(2)と並行してAlをドープしたSiCの超伝導特性を極低温交流磁化率及び比熱測定から明らかにした。また、上記物質と同様にB→Liへの中性子核変換によるドーピングを試みることができるため、ホウ素を含む新規超伝導体の探索を並行して行い、Ylr2B2が試料中のlrとホウ素の組成比の僅かな変化によって超伝導転移を示すことを示唆する結果を得た。これら物質が、将来の核変換ドーピングの対象物質になる可能性がある。
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