スピングラス(SG)のメモリーを読み出すための基礎として、まずメモリーの起源を解明するために、SG相関長がダイナミクスへ及ぼす影響を明らかにすることを目的として、メゾスコピックスケールでのSGの挙動を調べた。特に、本研究で用いるハイゼンベルグ型に属する金属SGの挙動が、イジングSGに対して広く受け入れられているドロップレット描像で解釈可能か否かについて検討した。微細加工により100〜200nm程度の石英ガラス柱の上に3次元的にサイズが制限されたSGAgMnを堆積した試料を作成し、その磁気特性を調べた。その結果、零磁場冷却磁化のピーク温度がバルクと比較して低下することを観測し、さらにSG領域での磁化緩和の測定より、SG相関長が時間的に成長し、その成長が微細構造のサイズで制限されるとの描像を得て、その成長に関する障壁指数を得た。さらに、磁場中での磁気挙動より、磁場クロスオーバー長の存在を示唆する結果を得た。これらの結果は、ハイゼンベルグSGにおいてもドロップレット描像が成り立つことを確度高く示しており、メモリー効果もこの描像を基盤に理解することが妥当であるものと考えられる。 一方、スピンホール効果測定の準備として、メゾスコピックサイズのリエントラントスピングラス(温度の低下と共に、常磁性から強磁性を経てSGへ転移する系で、通常のSGよりも磁化が大きい)Ni(Pt)Mn試料を用いたホール素子を作成し、異常ホール効果の測定を行なった。さらに、上記のAgMn試料と同様の形状を持つNi(Pt)Mn試料の磁化測定を行ない、異常ホール効果との比較を行なった。その結果、1つのメゾスコピックサイズの領域からなるホール素子においてのみ、SG領域でSGドメインの反転に伴うと考えられる飛びが観測され、ドロップレット描像を支持する特徴を見出した。
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