研究概要 |
鉄質沈殿物と炭酸塩沈殿物を析出する温泉は,始生代〜原生代の海洋環境のアナログである。本年度は大分県長湯温泉と秋田県の男鹿温泉・奥々八九郎温泉等において調査を行い,温泉水の分析と堆積物の組織観察を中心に研究を進めた,奥々八九郎温泉の鉄質沈殿物には,直径10ミクロンの鉄水酸化物による枝状構造が発達し,鉄酸化細菌であるFD-O1(Takashima et al.,2008)が鉄の酸化を担っていることが判明した,また,この堆積物からはシアノバクテリアと紅色非イオウ細菌が検出され,これらが行う光合成が,日輪と思われる組織形成に関与していると想定された。 また,長湯温泉のアラゴナイト質堆積物には明確な日輪組織が発達し,昼に細かいラミナを持つL層が,夜には結晶質のC層が形成する。堆積物表面から注意深く摘出した微生物群集はシアノバクテリアと従属栄養細菌であるHydrogenofagaから成る多様度の低いものであり,これらの代謝が日輪組織を形成したと結論付けられた(Okulllura et al.,2009)。 2つの堆積物は,組織的に先カンブリア紀の縞状鉄鉱層やストロマトライトに類似する。その組織形成に光合成細菌が関与するのであれば,縞のリズムは日周期である可能性が高いと考えられる,ただし,先カンブリア紀のストロマトライトの縞状組織が日輪であるならば,その堆積速度は極めて大きく,海水は高い過飽和状態であったと推定され,この時期の大気-海洋系の高い二酸化炭素分圧が示唆される。
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