研究概要 |
炭酸塩沈殿物を析出する温泉は,始生代~原生代の海洋環境のアナログである、本年度はアメリカ合衆国ユタ州と大分県長湯温泉において採集した試料について研究を進めた。 ユタ州にあるクリスタルガイザーは約16時間毎に湧出する間欠泉であり,そこから沈殿する縞状堆積物は湧出のタイミングに支配されて発達すると予想された。しかし,5日間におよぶ連続観測の結果,細粒沈殿物によるラミナが昼間にのみ生成することがあきらかになり,「縞」は間欠泉の湧出よりも,昼夜の光量変化に対応したシアノバクテリアの活性変化により発達することが解明された(奥村・狩野ほか,2009)。 長湯温泉のアラゴナイト質堆積物には明確な日輪組織が発達し,昼に細かいラミナを持つL層が,夜には結晶質のC層が形成する。堆積物表面から注意深く摘出した微生物群集はシアノバクテリアと従属栄養細菌であるHydrogenofagaから成る多様度の低いものであり,これらの代謝,特に細胞外高分子物質の放出が日輪組織を形成したと結論付けられた(Okumura, Kano et al., 2010)。2つの堆積物は,組織的に先カンブリア紀のストロマトライトに類似する。その組織形成に光合成細菌が関与するのであれば,縞のリズムは日周期である可能性が高いと考えられる。 さらに,国内の炭酸塩沈殿物を伴う温泉の化学的・同位体的特徴について考察し,いくつかのタイプを認定した(Takashima, Kano et al., 2010)。その結果,これらの温泉に認められる高いカルシウム濃度は必ずしも石灰岩の溶解によるものではない事があきらかになった。
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