研究概要 |
平成20年度は,美濃帯の下部ジュラ系チャート(岐阜県木曽川中流域)および秩父帯の中部三畳系チャート(大分県津久見市)について野外調査を行い,研究試料を採取した.採取した試料から,宇宙塵候補である磁性スフェルールを分離・抽出し,同時に放散虫化石を用いて採取試料の正確な年代決定を行った.研究の結果,美濃帯の下部ジュラ系チャートから59個の,秩父帯の中部トリアス系チャートからは107個の磁性スフェルールを発見した.本研究では,これらのスフェルールについて,顕微鏡,SEMによる表面組織の観察,EDSによる化学組成分析をおこなった.発見したスフェルールは,50μm以下のサイズが多く,最大は220μmである,EDSの定性分析からは,Niを数%-25%含みFeの強いピークが検出されるタイプと,コンドライトのスペクトルに類似したMg,Al,Si,Feのピークを持ち,ほかにCa,Niがみられるタイプが識別された.これらのタイプは南極氷床や深海底堆積物から報告されている,マグネタイトの殻からなる鉄質タイプ(Iタイプ)と,シリケイト質の石質タイプ(Sタイプ)のコズミックスフェルールにそれぞれ比較できる.しかし今回発見したスフェルールの表面は南極宇宙塵の組成と比較すると,Mg,Caに乏しく,Al,Siに富む傾向が認められた.この組成の違いは,変質によるMg,Caの溶脱とチャートからのAl,Siの吸着によると考えられる. 本研究の重要な成果として,付加体のチャートから過去の地球に降下した宇宙物質を直接回収することが可能であることを明らかにした点があげられる,今後,地質時代の宇宙塵を数千万年オーダーで連続して研究することで,過去の地球に流入した宇宙物質のフラックスや構成などが明らかにされると考えられる.
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