本研究の目的は、誘導体化法と核磁気共鳴法を組み合わせて、存在量のおよそ90%が、化学的未同定である海洋の溶存態有機物を分子レベル(官能基組成)で詳細に把握し、熱力学的解析(分子運動及び分子間相互作用)で海水中での動的挙動を推定することで、海洋における溶存態有機物の分解・残存メカニズムを明らかにすることである。 本年度は本研究の初年度であるため、研究に用いるための試料の採取、分析に用いるための前処理条件の検討を行った。 平成20年7月に東京大学海洋研究所所属淡青丸による相模湾・黒潮域を対象海域とした研究航海および平成20年9月に三重大学生物資源学部所属勢水丸による伊勢湾〜三河湾〜黒潮流軸〜四国海盆航海に参加し、これらの航海において、試料を採取した。採取した試料に対し、有機炭素量、同定可能成分(脂質、糖、アミノ酸)の濃度を有機炭素計、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定し、試料の基礎パラメータを得た。 さらに得られた試料について、限外濾過法および電気透析法を用いて、海水中の無機塩類の除去方法について条件検討し、濃縮有機物試料を得たのち、蛍光標識糖鎖電気泳動法を用いて、海水中の溶存有機物に2〜21単糖の糖鎖が含まれることを発見した。これらの糖鎖は、従来海水に酸処理を行うことで検出可能となる単糖類の存在することから、海水には多糖類が存在することが指摘されてはいたが、具体的に糖鎖を構成する単糖の個数までは知られていなかった。海洋の溶存有機物中の多糖類そのものを世界で初めて検出したことは、大きな成果である。
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