本研究では、試料に含まれる有機物全体に対して、特定の分子内の官能基に対して標識誘導体化法を適用し、観測核種すべてが分析対象となる1次元及び2次元-同核・異核-核磁気共鳴スペクトル法で修飾官能基を検出して、海洋溶存態有機物の化学像をあぶり出すことを試みる。研究目的は、以下に示す。 誘導体化法と核磁気共鳴法を組み合わせて、存在量のおよそ90%が、化学的未同定である海洋の溶存態有機物を分子レベル(官能基組成)で詳細に把握し、熱力学的解析(分子運動及び分子間相互作用)で海水中での動的挙動を推定することで、海洋における溶存態有機物の分解・残存メカニズムを明らかにする。 本年度は、20年度に得られた脱塩・濃縮試料に対し、標識誘導体化を行い、1次元および2次元核磁気共鳴スペクトル法で標識誘導体化された官能基の検出を行った。標識誘導体化官能基の分布特性を得る。またそれらの海域・深度などにおける異同を明らかにする。誘導体化の際に試料に混入する無機塩の影響で、誘導体化反応は阻害されたため、至適条件の模索をすると共に、無機塩に影響されない検出法を導入した。溶存有機物について、蛍光誘導体化法と電気泳動法を組み合わせた分析法を開発した。溶存有機物中に2糖から23糖までの複合糖質が存在していることが分かった。
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