本研究では小惑星の表面年代(天体そのものの形成年代ではなく、天体の現在の表面が形成された年代)を決定する新しい方法を試行する。これまでの表面年代の決定法とは全く異なる原理を用いる。具体的には、小惑星の表層から飛来した隕石の反射スペクトルと希ガス同位体分析を行い、小惑星表層の“宇宙風化作用"による反射スペクトルの変化を百万年刻みで推定する。これらのデータから、反射スペクトルの観測データがある多数の小惑星の表面年代を求める。小惑星帯の形成進化過程を解明する端緒とする。 今年度は小惑星表層起源隕石であるDubrovnik普通コンドライト隕石およびOum Dreyga普通コンドライト隕石に対し、鉱物学的研究および希ガス同位体分析を行った。これらの隕石は、白い部分(太陽風非照射部分)と灰色の部分(照射部分)がはっきりと認識できる隕石である。白い部分と灰色の部分を精密切断装置で分離し、片面研磨し、電子顕微鏡を用いて鉱物学的研究を行った。その結果、Dubrovnik普通コンドライトは平衡Lコンドライトに特徴的な組成のケイ酸塩鉱物、硫化物、金属鉄で形成されていることがわかった。白い部分と灰色の部分に大きな鉱物学的違いは見られなかったが、灰色の部分のみに非平衡Lコンドライトの物質が混入していることがわかった。このことは、天体表層で、衝突などにより鉱物学的特長が異なる物質が混合されたことを示唆する。一方、Oum Dreyga普通コンドライト隕石は、平衡Hコンドライトに特徴的な組成のケイ酸塩鉱物、硫化物、金属鉄で形成されていることがわかった。一方、白い部分、灰色の部分、それぞれ数十mgに対し、希ガス同位体比分析を行った。その結果、予想どうり白い部分からは銀河宇宙線の成分のみが、灰色の部分からは太陽風の成分と銀河宇宙線の成分が検出された。これは、灰色の部分が小惑星表層で太陽風にさらされていたことを支持する。詳細はデータ解析は進行中である。
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