前年度に開発したコヒーレントなエキシトンの時空間変化を可視化できるAb initio MO-SCI法に基づく新しいエキシトンの定義を用い、アントラセン二量体間のエキシトン回帰運動を可視化した。回帰周期は実験値とよい一致を示し、それぞれのアントラセン分子内での分極振動が分子間で行き来している様子が明らかになった(Journal of Physical Chemistry Aの表紙に採用)。現在、開殻分子系の場合の定式化や動的非線形光学特性の空間的エキシトン分布の時間変化の可視化を行えるように拡張中である。 分子集合体モデル系のエキシトンダイナミクスでは、各モノマーの状態モデルとモノマー間に双極子-双極子相互作用を考慮した量子マスター方程式法をリング状の集合体モデルに適用した。二重リング系に対し、2種類の円偏光、(a)両方とも同じ方向に回転する円偏光、(b)互いに逆方向に回転する円偏光、を照射した後のエキシトンダイナミクスを検討した。(a)の場合はリング内の回転は起らずに外側と内側のリシグ間をエキシトン分布が回帰し、(b)の場合は外側と内側のリング上を同方向に回転するエキシトンダイナミクスが観測された。各エキシトン状態間の位相差とエキシトンの空間分布から、これらの原因を解明した。以上の結果は、2モードの円偏光の回転の向きを互いに調整することで、リング上のエキシトンのダイナミクスを制御する可能性を示唆し、量子情報デバイス等で重要となるコヒーレンシーの時空間制御への展開が来される。今後、さらに複雑なエキシトン運動の制御可能性を探る予定である。
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