本研究は、化合物の特定の振動順位に対応する赤外レーザー照射により、溶液内に熱的な非平衡系を構築し、化学反応を制御する可能性の検証を行うことを目的としている。重原子による振動エネルギー移動の効率的遮断と、結合の切れやすさを考慮して、基質として2価の有機テルル化合物を選んだ。レーザー照射の段階で、自由電子レーザーの発振に問題が出たため、干渉型YAGレーザーの利用に変更した。照射レーザーの波長可変領域が5.5umから8umの間であることから、エネルギー吸収官能基としてカルボニル基(C=O)とフッ素官能基(C-F結合)を有するテルル化合物を合成した。基質となるこれらの化合物について理論計算を行い、振動順位と振動モードの関連付けを行い、実際の赤外吸収のそれぞれについて振動モードを割り当てた。800cm-1より高波数側の振動モードにはテルルの動きが見えないため、テルルが振動の遮断に効果的である事が示唆された。昨年度合成法を開発したテルロールエステル類を用い、遷移金属触媒によるテルルーカルボニル炭素結合の切断反応を検討し、Pd触媒を用いるアルキン類の分子内テルロカルバモイル化によるα-アルキリデンラクタムの生成反応を開発した。また、テルル-炭素結合の切断が容易と考えられるベンジルテルリドおよびその誘導体を合成し、遷移金属を使わない反応として、ArTe-CH2Ar'のラジカル的結合切断を検討した。また、ルイス酸配位子を振動励起させる反応系として、B(C6F5)3を配位させて、振動励起の効果を検討した。これら、3つのモデル反応に付いて、パルス幅数ミクロン、10Hz、約1mJ/ショットのレーザーを照射し反応の進行を追跡した。現在、そのデータの取りまとめ中である。
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